中小PMIガイドライン⑧:発展編(詳細編―事業機能)
今回は、「動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)」です。
このブログでは、M&A後のPMI(Post Merger Integration)における事業シナジー効果を最大化するための取り組みについて、より詳細に解説します。
PMIの目標は、譲り受け側と譲り渡し側の経営資源を効果的に統合し、売上拡大やコスト削減といったシナジー効果を生み出すことであり、その巧拙次第では、持続的な成長と企業価値の向上につなげるきっかけになります。
※画像はイメージです。
〈目次〉
※実際の動画の内容
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
※以下、『中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために~』も参考にしながら、動画を解説していきます。
シナジー効果の種類
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
●売上シナジー:
顧客基盤、製品・サービス、販売チャネルなどを相互に活用・組み合わせることで売上拡大を図る効果のことです。
・譲受側の営業担当者が既存顧客に対し、従来の商材に加えて譲渡側の商材の営業活動を行うことで、顧客あたりの売上増加を図るクロスセルといった取り組みが挙げられます。
・販売チャネルの拡大として、顧客基盤を相互に紹介し合い、相手方の既存顧客に対して直接販売を行うことで、新たなチャネルの開拓や営業エリア拡大を実現することも可能です。
●コストシナジー:
重複する業務機能の集約・統廃合、共同調達、生産体制の見直しなどによりコスト削減を実現する効果をいいます。
・生産現場の改善では、譲渡側の生産現場における5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の改善などを通じて、生産性向上を目指します。
・共同調達により、譲受側と譲渡側で別々に重複して仕入・購買を行っている品目を共同で調達することで、価格交渉力を強化し調達単価の引き下げを実現することも考えられます。
売上シナジー実現に向けた取り組み
(1)クロスセル:
既存顧客に対して、M&A相手方の商材をセット販売する手法。顧客あたりの売上増加が期待できる。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
例えば、譲受側がオフィス家具販売、譲渡側がオフィス機器販売を行っている場合、既存顧客にオフィス家具とオフィス機器をセットで提案することで、顧客あたりの売上増加を図ることができます。
②留意点:
既存顧客の信用を失わないよう、相手方の商材知識や営業方法の習得が重要。
闇雲に提案するのではなく、既存顧客との関係性を重視し、ニーズに合致した提案を行うことが重要です。
(2)販売チャネルの拡大:
顧客基盤を相互に紹介し、新たな販売チャネル開拓や営業エリア拡大を目指す。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
譲受側が都市部、譲渡側が地方に強い販売網を持っている場合、互いの顧客基盤を活用することで、新たな地域への進出や販売チャネルの拡大を実現できます。
②留意点:
相手方顧客との信頼関係構築、顧客情報共有の際は事前の承諾取得と情報管理の徹底が必要。
個人情報保護法等に配慮し、適切な情報管理体制を構築することが重要です。
売上シナジーに関する高度な取り組み
(1)製品・サービスの高付加価値化:
既存製品・サービスを融合し、付加価値を高めて受注拡大と売上増加を狙う。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
譲受側が道路標識製造、譲渡側が設備工事を請け負っている場合、両者を組み合わせることで、顧客に対してワンストップで道路インフラ整備サービスを提供できるようになり、受注拡大と売上増加が見込めます。
②留意点:
双方の製品・サービスと顧客ニーズに関する深い理解、効果的な組み合わせ方や営業手法の検討が必要。
単に組み合わせるだけでなく、顧客に新たな価値を提供できるよう、綿密な計画と検討が求められます。
(2)新製品・サービスの開発:
双方の経営資源や組織能力を活用し、新製品・サービスを開発することで、既存顧客との取引拡大や新たな収益源の獲得を目指す。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
譲受側が食品製造、譲渡側が健康食品販売を行っている場合、両社の技術やノウハウを融合することで、新たな機能性食品を開発し、健康志向の高い顧客層へのアプローチが可能になります。
②留意点:
新製品・サービス開発には多大なコストとリスクが伴う。
顧客ニーズの深い理解と洞察、双方技術・人材の強みを活かした緊密なコミュニケーションが重要。 市場調査や競合分析などを十分に行い、成功の可能性を高める必要があります。
コストシナジー実現に向けた取り組み(売上原価)
(1)生産現場の改善:
5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)活動などを通して、ミス撲滅や作業効率向上による生産性向上を目指す。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
生産現場の整理整頓を徹底することで、必要な部品や工具がすぐに見つかるようになり、作業時間の短縮やミスの削減につながります。
②留意点:
5S活動を利益に直結する重要活動と位置付け、従業員の意識改革を促し、主体的な改善風土を醸成する。
一過性の活動ではなく、継続的に取り組むことで、効果を最大化することが重要です。
(2)仕入先の見直し:
不利な取引条件の改善や新たなサプライヤー獲得による調達コスト削減、供給網の安定化、品質・費用・納期の改善を目指す。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
譲受側と譲渡側が同じ原材料を異なるサプライヤーから調達している場合、共同で調達先を一本化することで、ボリュームディスカウントによるコスト削減や安定供給体制の構築が可能になります。
②留意点:
サプライヤーとの良好な関係維持、安定調達のためのサプライヤー分散なども考慮する。 コスト削減だけでなく、品質や納期、サプライヤーとの関係性なども考慮した上で、総合的に判断することが重要です。
(3)在庫管理方法の見直し:
過剰在庫や滞留在庫の削減による資金繰り改善を目指す。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
在庫管理システムを導入することで、リアルタイムな在庫状況を把握できるようになり、発注のタイミング最適化や過剰な在庫を抱えることを防ぎ、資金繰りの改善に繋がります。
②留意点:
在庫回転期間の把握、在庫管理システム導入による在庫情報の可視化と管理体制の強化。 在庫管理の現状を分析し、適切なシステムを導入することで、効率的な在庫管理を実現できます。
コストシナジーに関する高度な取り組み(売上原価)
(1)共同調達:
重複する仕入品目を共同で調達することで価格交渉力を強化し、調達単価の引き下げを目指す。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
譲受側と譲渡側がオフィス用品を別々に購入している場合、共同で調達することで、大量購入による割引を受け、調達コストを削減できます。
②留意点:
中小企業では規模メリットが出にくい場合がある。
部材の共通化や品目数の削減は効果的だが、製品性能への影響も考慮する必要がある。
共同調達によるコスト削減効果と、製品品質への影響などを慎重に検討する必要があります。
(2)生産体制の見直し:
生産工程・設備の見直し、生産拠点の統廃合などにより、投資コストや製造コスト、輸送コストなどを削減し、安定かつ高効率な生産体制を構築する。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
譲受側と譲渡側がそれぞれ工場を持っている場合、生産能力や稼働率を考慮し、一方の工場に生産を集約することで、設備投資や人件費などのコスト削減が可能になります。
②留意点:
生産体制に関する情報の可視化、拠点統廃合に伴う物件違約金、土壌汚染、従業員移転などの問題にも注意が必要。
生産体制の見直しは、大規模な投資や人員配置の見直しを伴う場合があり、慎重に進める必要があります。
コストシナジー実現に向けた取り組み(販管費)
(1)広告宣伝販促活動の見直し:
広告宣伝販売促進費の総額抑制、費用対効果の低い活動の廃止・見直しによるコスト削減。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
効果測定ツールを導入し、広告宣伝活動の効果を分析することで、費用対効果の低い広告媒体やキャンペーンを廃止・縮小し、コスト削減を図ります。
②留意点:
経営者の目が届きにくいため、現状把握と発注権限の明確化、相見積もりの導入、効果測定の仕組み構築が重要。
広告宣伝販促活動は、効果が見えにくい部分があるため、適切な管理体制を構築することが重要です。
(2)間接業務の見直し:
業務の質的・量的改善により、従業員の残業時間短縮や業務品質向上、業務効率化を実現する。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
営業日報の作成をシステム化することで、営業担当者の事務作業を軽減し、本来の営業活動に集中できる時間を増やすことができます。
②留意点:
業務の属人化を解消し、実態把握、改善対象特定、改善案作成・実施・検証を丁寧に行う。ITシステム導入による業務効率化も有効。
業務フローの見直しやシステム導入は、従業員の反発を招く可能性もあるため、丁寧な説明と合意形成が重要です。
コストシナジー実現に向けた高度な取り組み(販管費)
(1)共同配送:
物流事業者の共通化と荷物集約による物流費削減。同一または近接エリアへの配送がある場合に有効。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
譲受側と譲渡側が同じ地域に顧客を持つ場合、共同で配送業者を利用することで、配送コストを削減できます。
②留意点:
配送タイミングの調整、配送先情報や時間制約などの情報共有と物流事業者との協議が重要。
配送ルートや納品時間の調整など、物流業者との綿密な連携が不可欠です。
(2)管理機能の集約:
譲渡側の管理機能(経理、労務など)の一部または全部を譲受側に集約することで、業務効率改善と管理機能の生産性向上を目指す。
[出典]動画⑧:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―事業機能)(metichannel/経済産業省)
①具体的な事例:
譲渡側の経理業務を譲受側の経理部門に統合することで、人員の効率的な配置やシステムの共有化によるコスト削減を実現できます。
②留意点:
従業員の勤務地変更に伴う丁寧な説明と合意形成、ITツール活用による業務自動化やアウトソーシングも検討する。
従業員の雇用条件や勤務地に変更が生じる場合は、十分な説明と納得を得ることが重要です。
(3)販売拠点の統廃合:
同一エリア内の重複する販売拠点を統廃合することで、賃料や光熱費などのコスト削減、業務平準化、人員最適化などを図る。
①具体的な事例:
譲受側と譲渡側が近隣に店舗を構えている場合、一方の店舗に統合することで、賃料や光熱費などのコスト削減が可能になります。
②留意点:
物件違約金、関係者への周知、従業員移転などの問題に注意。
営業担当者の移動距離増加や経費増加などの非効率化も考慮し、営業担当者の割り振りも見直す。
顧客への影響や従業員の負担増加なども考慮し、最適な統廃合計画を策定する必要があります。
まとめ(中小PMIガイドライン⑧)
これらの取り組みは、M&Aの目的や優先順位、企業規模や業種、統合の進捗状況などを考慮し、適切なものを選択・組み合わせることが重要です。
専門家や支援機関のアドバイスも活用しながら、シナジー効果を最大限に引き出し、PMIを成功に導きましょう。
次回
次回は、【動画⑨:中小PMIガイドライン講座 発展編(詳細編―管理機能)】について、解説していきます。お楽しみに!
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人的要素の重要性を強調し、企業文化の違いを問題視せず、むしろ活かす方法を提案している。
M&Aを検討する中堅・中小企業の経営者や実務担当者にとって、貴重な指針となる一冊といえるだろう。
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