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執筆者の写真ふかや経営サポート

中小PMIガイドライン⑥:発展編(概要編)

更新日:11月6日

M&Aは、企業成長のための強力な手段となりえます。特に中小企業においては、新たな市場への進出、技術力の向上、事業承継問題の解決など、様々なメリットをもたらします。しかし、M&A後の統合プロセスであるPMI(Post Merger Integration)を適切に進めなければ、期待した成果を得られないばかりか、企業価値を毀損してしまうリスクも孕んでいます。


経済産業省が提供する「中小PMIガイドライン」は、中小企業がM&Aを成功させるための実践的な指針を示しています。



本記事では、この発展編の内容を踏まえ、中小企業M&AにおけるPMIの重要性と、統合を成功に導くための具体的なステップについて解説していきます。


中小PMIガイドライン講座 発展編(概要編)

※画像はイメージです。


 

〈目次〉

 

※実際の動画の内容

[出典]動画⑥:中小PMIガイドライン講座 発展編(概要編)(metichannel/経済産業省)


※以下、『中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために~』も参考にしながら、動画を解説していきます。





概要

 

この動画では、中小企業向けのPMIガイドライン講座の発展編の概要について説明していきます。


発展編では、M&A成立後の円滑な引き継ぎだけでなく、M&Aの目的や中小企業でも対応可能なシナジー効果の実現に向けた取り組みをまとめとなっています。


また、基礎編の内容を踏まえ、M&Aを契機として譲り受け側と譲り渡し側が一体となって成長するために、経営業務における各領域をいかに統合するかを豊富な事例を交えた解説となっております。





1. 発展編の構成

 
発展編の構成

経済産業省が提供する「中小PMIガイドライン」は、中小企業のM&A後の統合プロセス(PMI)を成功に導くための実践的な指針です。


中でも発展編は、基礎編を踏まえ、より複雑な中規模M&A案件を想定した内容となっています。もちろん、小規模案件や株式譲渡案件にも参考になる内容が豊富に含まれています。


発展編では、「経営統合」と「業務統合」の2つの主要な領域に焦点を当て、M&A後の統合プロセスを包括的に解説しています。


経営統合:

譲受企業と譲渡企業の経営理念、ビジョン、価値観を統合し、一体となった経営を目指すための取り組みです。


業務統合:

事業機能

顧客基盤、製品・サービス、販売チャネル、技術、ノウハウなどの経営資源を相互に活用・統合し、シナジー効果を追求します。


管理機能

人事、会計、法務、ITシステムなど、企業活動を支える管理機能を統合し、標準化・効率化を図ります。





2. 代表的なシナジー効果:M&Aによる成長戦略

 
代表的なシナジー効果:M&Aによる成長戦略

シナジー効果は、M&Aによって企業が単独では達成できなかった成果を生み出す効果を指し、M&A後の企業価値向上には欠かせない要素です

発展編では、特に「事業機能」の統合におけるシナジー効果の発揮を重要視しており、大きく「売上拡大」と「費用削減」の2つに分類できます。



2.1 売上拡大:新たな市場と顧客へのアクセス

M&Aによって、譲受企業と譲渡企業の顧客基盤や製品・サービスを相互に活用できるようになり、売上拡大の可能性が大きく広がります。


  • 顧客基盤の共有:

既存顧客基盤を相互に共有することで、新たな顧客層へのリーチが可能となり、売上増加に繋がります。

例えば、譲受企業が持つ販売網を通じて、譲渡企業の製品を新たな市場に展開することなどが考えられます。

  • クロスセル:

顧客に対して、譲受企業と譲渡企業の製品・サービスを組み合わせた販売を行うことで、顧客単価の向上や顧客ロイヤリティの強化などが期待できます。

  • 製品・サービスの補完:

互いの製品・サービスを補完しあうことで、より魅力的な商品ラインナップを構築し、顧客ニーズを満たすことができます。

  • ブランド力の強化:

強いブランド力を持つ企業と統合することで、自社のブランド価値向上や認知度向上に繋げ、売上拡大を促進できます。



2.2 費用削減:効率的な経営体制

重複する業務機能や設備の集約・統廃合、共同調達などにより、コスト削減を実現できます。


  • 規模の経済:

共同調達や生産量の増加により、スケールメリットを享受し、原材料や製品の調達コストを削減できます。

  • 業務効率化:

重複する業務機能の統合、標準化、システム化などにより、業務効率を向上させ、人件費や間接費を削減できます。

  • 設備の共有:

生産設備や物流拠点などを共有することで、設備投資や維持管理コストを削減できます。



2.3 中小企業M&A特有のシナジー効果

中小企業同士のM&Aでは、上記のシナジー効果に加え、譲受企業の持つノウハウを活用することで、譲渡企業の経営や業務を改善し、収益力向上を図るケースも考えられます。


  • 経営管理ノウハウの共有:

より高度な経営管理手法や財務管理ノウハウを譲渡企業に導入することで、経営効率を向上させ、収益改善に繋げることができます。

  • 営業力強化:

譲受企業の営業ノウハウや販売チャネルを活用することで、譲渡企業の営業力を強化し、売上拡大を図ることができます。

  • 技術力向上:

譲受企業の技術力や研究開発能力を活用することで、譲渡企業の製品・サービスの品質向上や新製品開発を促進することができます。



2.4 シナジー効果実現のポイント

シナジー効果の実現には、以下のポイントを押さえることが重要です。


  • 綿密な計画と実行:

M&A前に、実現可能なシナジー効果を具体的に特定し、具体的な計画を策定しておく必要があります。

統合後も、計画に基づいた着実な実行が求められます。

  • 組織文化の融合:

異なる企業文化を持つ組織を統合する際には、相互理解を深め、新しい企業文化を醸成していくことが重要です。

  • コミュニケーションの促進:

統合プロセスにおいては、従業員への情報共有や意見交換を積極的に行い、不安や混乱を解消することが重要です。

  • 適切な人材配置:

シナジー効果発揮には、適切なスキルや経験を持つ人材を重要なポジションに配置することが重要です。


シナジー効果は、M&Aを成功させるための重要な要素の一つですが、実現には綿密な計画と適切な実行が不可欠です。





3. 管理機能の強化:統合による強固な基盤構築

 
管理機能の強化:統合による強固な基盤構築

発展編では、「管理機能」の強化についても詳しく解説しています。

管理機能は、企業活動を支える重要な要素であり、M&A後の円滑な統合と成長には、譲受企業と譲渡企業の管理機能を統合し、強化することが不可欠です。


3.1 譲渡企業の実態把握:現状分析から課題を特定

M&Aを成功させるためには、まず譲渡企業の管理機能の実態を正確に把握することが重要です


  • デューデリジェンスの活用:

M&A前のデューデリジェンスにおいて、人事、会計、法務、ITシステムなどの管理機能に関する詳細な調査を行い、現状を把握しましょう。

  • 追加の情報収集:

デューデリジェンスに加え、M&A成立後にも、必要に応じて、ヒアリングや資料分析などを通じて、追加情報を収集し、より詳細な実態把握に努めます。

  • 課題の明確化:

収集した情報に基づいて、譲渡企業の管理機能における課題やリスクを明確化します。

例えば、法令違反の可能性、内部統制の不備、ITシステムの老朽化などの問題点がないか、詳細に分析することが必要です。



3.2 必要に応じた改善:優先順位に基づいた段階的対応

譲渡企業の管理機能における課題やリスクに対して、重要性や緊急性などを考慮し、優先順位を付けて改善策を講じます。


  • 重要度と緊急度の評価:

各課題について、重要度と緊急度を評価し、対応の優先順位を決定します。

  • 段階的な対応:

すべての課題を一度に解決することは困難な場合もあります。

優先順位の高いものから順次対応していく段階的なアプローチが有効です。

  • 具体的な改善策の実施:

明らかな法令違反やリスクの高い項目については、速やかに是正措置を講じなければいけません。

その他の課題についても、業務フローの見直し、システム導入、規程整備など、具体的な改善策を実行しましょう。



3.3 連携の強化:グループ全体最適の視点

譲受企業と譲渡企業の管理機能を連携させ、グループ全体で最適化された管理体制を構築することで、経営効率の向上とリスク管理の強化を図ることができます。


  • 標準化と統合:

業務プロセスやシステム、規程などを標準化し、統合することで、業務効率を高め、コスト削減に繋げます。

  • 情報共有の促進:

グループ全体で情報を共有する仕組みを構築することで、意思決定の迅速化や業務の連携強化を図りましょう。

  • 人材交流:

譲受企業と譲渡企業間で人材交流を行うことで、相互理解を深め、ノウハウ共有や人材育成を促進します。



3.4 代表的な管理機能と強化ポイント

代表的な管理機能としては、以下の4つが挙げられ、それぞれにおいて強化すべきポイントが存在します。


1. 人事労務分野

・賃金体系、評価制度、人事制度などを統合し、公平性と透明性の高い人事制度の構築が求められます。

・従業員教育や研修制度を整備し、グループ全体の人材育成に注力することが重要です。

・労務管理体制を見直し、法令遵守の徹底が不可欠です。


2. 会計財務分野

・会計システムや会計基準を統一し、正確で信頼性の高い財務情報の確保に努めましょう。

・資金管理体制を強化し、効率的な資金運用を心がけることが大切です。

・内部統制システムを構築し、不正リスクの抑制と財務報告の信頼性向上を目指しましょう。


3. 法務分野

・契約書管理、コンプライアンス体制、知的財産管理など、法務関連業務を統合し、効率化とリスク管理の強化に取り組むことが必要です。

・グループ全体の法令遵守体制を構築し、法令違反リスクの低減に努めることが重要です。


4. ITシステム分野

・ITシステムを統合し、情報共有の基盤構築を進めましょう。

・セキュリティ対策を強化し、情報漏えいなどのリスク防止に取り組むことが不可欠です。

・システムの標準化、最新化を行い、運用コストの削減と効率性の向上を図ることが望ましいでしょう。



3.5 専門家の活用:円滑な統合に向けた外部支援

必要に応じて、弁護士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、ITベンダーなどの専門家の支援を受けることが推奨されています。

専門家の知見を活用することで、より効率的かつ効果的な管理機能の強化を実現できます。





まとめ(中小PMIガイドライン⑥)

 

PMI発展編は、中小企業M&Aにおける統合プロセスを成功に導くための羅針盤と言えます。


発展編で解説されている内容を理解し、実践することで、統合プロセスにおける様々な課題を克服し、シナジー効果を最大化することで、M&A後の企業価値向上を実現することができます。




次回

 




※関連書籍

 
『日本型PMIの方法論――中堅・中小企業を成長させるポストM&Aのプロセス』(竹林 信幸/プレジデント社)


本書は、中堅・中小企業向けのPMIに焦点を当てた実践的な指南書。


著者の豊富な経験に基づき、日本の企業文化に適したPMIの方法論を展開している。


特筆すべきは、PMIを単なる統合作業ではなく、買収後の成長プロセスとして捉える視点。


人的要素の重要性を強調し、企業文化の違いを問題視せず、むしろ活かす方法を提案している。


M&Aを検討する中堅・中小企業の経営者や実務担当者にとって、貴重な指針となる一冊といえるだろう。



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