ゼロゼロ融資
新型コロナウイルスの影響を受けた中小企業や個人事業主を支援するために導入された「ゼロゼロ融資」は、実質無利子・無担保で資金を提供する制度です。
この制度は2020年3月に始まり、2022年9月には申込受付が終了しました。
多くの企業がこの融資を利用し、総額は約43兆円に達しましたが、現在、その返済が本格化する中で深刻な問題が浮上しています。
〈目次〉
ゼロゼロ融資とは
ゼロゼロ融資は、コロナ禍で売上が減少した事業者に対し、実質無利子・無担保で融資を行う画期的な制度でした。
個人事業主は最大6,000万円、中小企業は最大3億円まで借り入れが可能で、返済が滞った場合でも信用保証協会が元本の大部分を肩代わりする仕組みとなっています。
中小企業庁の発表によると、2022年6月末時点で全国約234万件、42兆円もの融資が実行されました。
この巨額の資金供給により、多くの企業が倒産の危機を回避できたことは、まぎれもない事実です。
(TheFinance)
ゼロゼロ融資の仕組み
・ゼロゼロ融資の流れ
・主な特徴
対象:
新型コロナウイルス感染症の影響で、売上が一定割合以上減少した中小企業や個人事業主。
無利子・無担保:
融資から最初の3年間は実質無利子で、担保も不要。
融資額と期間:
中小企業は最大3億円、個人事業主は最大6000万円まで融資可能。
返済期間は最長20年で、最初の5年間は元金返済が猶予される場合もある。
信用保証:
返済が滞った場合、信用保証協会が最大80%または全額を保証。
返済開始:
2023年7月から返済が本格化し、多くの企業が返済負担に直面している。
コロナ借換保証:
返済負担軽減のため、新たな借換え制度が導入されている。
制度の功績
ゼロゼロ融資の最大の功績は、コロナ禍による急激な経済悪化から中小企業を守ったことです。
東京商工リサーチの調査によると、2021年の企業倒産件数は6,030件と、バブル期の1990年をも下回る低水準となりました。
また、実質無利子・無担保という条件は、通常の融資では考えられない好条件でした。
(東京商工リサーチ)
浮き彫りになる問題点
しかし、融資開始から4年以上が経過し、返済が本格化する中で、新たな問題が浮上しています。
返済の困難
帝国データバンクの調査によると、ゼロゼロ融資の返済額が融資額の5割以上に達した企業はわずか13.3%に留まり、42.3%の企業が3割未満の返済に止まっています。
コロナ禍の長期化や、原材料費の高騰、円安の影響などにより、多くの企業が返済に苦慮している状況です。
追加融資の困難
返済に行き詰まった事業者が新たな借り入れを求めても断られるケースが増加しています。
金融機関側も、返済が滞っている企業への追加融資には慎重にならざるを得ない状況です。
廃業の増加
返済が困難になり、廃業を選択する事業者も出始めています。
不良債権化のリスク
会計検査院の「令和4年度決算検査報告の概要」によれば、政府系金融機関が実施したゼロゼロ融資約19兆円のうち、約1兆円が回収不能または回収困難なリスク債権(不良債権)となっているとのことです。
【参考】
問題の背景
ゼロゼロ融資で返済困難に陥る企業が多い背景には、以下のような要因が考えられます。
借り過ぎと貸し過ぎ
無利息・無担保という異例の条件下で、必要以上に借り入れを行った企業や、審査を簡略化して貸し過ぎた金融機関が存在した。
ゾンビ企業への融資
緊急支援策としてスピードを重視した結果、本来であれば融資が困難な経営状態の企業にも融資が行われた。
無利息期間の終了
借り入れ後3年で無利息期間が終了し、2023年から本格的な返済が始まった。
これに加え、原材料費の高騰や円安の影響で、中小零細企業の資金繰りが一層厳しくなった。
返済不能時のリスク
ゼロゼロ融資の返済ができない場合、以下のような事態に陥る可能性があります。
金融機関からの支払督促
保証会社による代位弁済
訴訟や財産差し押さえの可能性
これらの事態は、企業の信用失墜につながり、経営状況をさらに悪化させる恐れがあります。
まとめ(今後の課題と対策)
ゼロゼロ融資は、コロナ禍における緊急措置として多くの企業を救った一方で、返済の本格化に伴い新たな経済課題を生み出しつつあります。
今後、この「42兆円」の融資が日本経済に与える影響を注視しないといけません。
政府は、コロナ借換保証などの追加支援策を検討していますが、返済に苦しむ事業者への長期的な支援策が求められます。
企業側も経営改善や事業再構築に取り組み、自立的な経営基盤の確立を目指していかないといけません。
金融機関には、借り手の状況に応じた柔軟な対応が求められます。
返済条件の変更や追加融資の検討など、企業の再生を支援する姿勢が重要です。
政府や金融機関、企業が一体となって、日本経済の持続的な成長につながる施策を検討していくことが不可欠です。
ゼロゼロ融資の教訓を活かし、将来的な危機に備えた新たな金融支援の在り方を模索する必要があります。
ゼロゼロ融資は、コロナ禍という未曽有の危機に対する緊急措置として一定の成果を上げましたが、その副作用も顕在化しつつあります。
今後は、この経験を踏まえ、より持続可能な経済支援の仕組みづくりが求められています。
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